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小石スケッチ
1. 小石スケッチ    *** 赤色 は自選、クリックで開きます。(開かない時は▲をクリック)


 ふくらんだ白い太陽の
 薄皮が破れ
 春の子らが
 うじゃうじゃと湧き出る  

 鋭く
 割れたガラスの
 角口に射し込む
 朝の斜光

    *角口は私的語

 なぎ倒された影が
 青く濡れた路面を這い
 光差す土塀を屈折して
 朝の空を啜る



 閉じられた店先で
 木箱にこごまるしおれた野菜
 所在なく
 春の日陰にまどろむ




2. 小石スケッチ2
 



 薄衣の素肌に
 差し込まれた北風
 目を剥く光
 宙を返り 反っくり返り 
 犬が
 跳ね上がって喰らう

 小さなガラス玉を
 陽にかざして覗く
 ひとりぽっちの
 明るい海

 光が滑る
 ふくらんだ木肌の枝に
 こぶかと思ったら
 全身を毛羽立てて
 まん丸な野バトが
 身づくろいをしていた

 闇の中で
 ももの花が
 花びらを開くまいとして 
 ほの紅く
 輝いている



落書きブック
1. トテチテタ
 

ウー ウー
ちいさな いしの ウー
くねらちた ゆびの ゆびさす ポチポチ さきっぽに
ちいさな いきものがいる
ペッチンむし めをしろくろ

オー オー
ちいさな おどろきの オー
めだま こぼれる プルプル ひとみの ちゅうしんに
あたらしい はっけんがある
ぼたんや しみや ちょうつがい ワイワイ

アー アー
ちいさな よろこびの アー
まりまる ほっぺた きるり ちゅうがえる くちびる
いっせいに なみうつ うぶげに
おもいだしたよ
てのひらを はぜかえる かんじょうがある
おひさま ぽっちゃり ニッコリコ

そんなふうに せかいを トーチタ テチタ 
そんなふうに ぼくらも テーシケ テシケ
いくども まゆを くもらせ テテシケタ
くもらせ くもらせ トテチテタ


2. てんとう虫
 

伸びはじめたつる草の
大風に吹かれて逆さに
てんとう虫の
うしろまえにキャップを被った
さあ くゆら くゆら
大草原のつな登りだ


3. たんぽぽ
 

風があったかくなると
たんぽぽ
チューインガムを引き伸ばしていると
たんぽぽ
道ばたで黄色い渦を巻き
根っこをつないで輪になって
陽気な陽射しもさみしい眼差しもいっしょくたに吸い込んで
手をつないで遊んでけ と言う

そんな土中のやり取りを
モンシロチョウチョのお嬢さんが ほら
いぶかしげに半開きの羽を風にくゆらし
草色の複眼で覗き込んでいる


4. たんぽっぽ
 

たんぽっぽ咲き 春はもう帰れない
たんぽっぽに掴まれて 春はもう動けない
たんぽっぽ笑うと
ひときわ明るく陽もほころび
寝ぼけまなこのモンシロチョウチョ
てんで勝手な春草娘のおしゃべりを
あっちへ こっちへ 御用きき
春ごっこするもの この指 とーまれ


5. いるんだ 魚が
 

青い海には
茶色い町と違って
キッパリと
いるんだ 魚が
いるんだ いるんだ
魚が 魚が

波の下には
希薄なデパートの屋上と違って
水中がぎっしり詰まり
時のとろけた光の底を
海藻がゆらゆら
ゆらゆら ゆらゆら
揺れているんだ

青い海には
ガラス張りの公園のベンチと違って
くるんだ 魚が
くるんだ くるんだ ちっちゃい魚が
単純で透明な挨拶をかわしに
くるんだ 魚が でっかい魚も
くるんだ くるんだ
くるんだ くるんだ
魚が 魚が

6. 赤ちゃん
 

ぼくの腕の中に
赤ちゃん!
白い綿帽子からほかほか湯気をたてた生命
お前さん!
むかごをくっつけたマシュマロ足と
帆立貝のようなでんでんこぶしで
どんなユーモアといとおしさを突き出しているの?
この世界に初めて見るぼくを驚いているの?
まん丸な目をじっと見開いてぼくを吸い取ろうとして
こんにちわ!
遠い海のような青い白目の中になんて黒い瞳
ひっくり返したら宇宙へ穴ぼこが開いているんじゃないかい君は
背中に何をくっつけているの?
切れたてのへその緒が消えてゆくよ ほら
不思議な闇でぼくを脅かさないで
アハッ
短い舌のあくびで顔をくしゃくしゃにしてくれて
ありがとう
ほっとしてお休みを言えるよ
おやすみ!

7. 野っぱら
 

野っぱらに北風がぴゅーっと吹くと
スウェタアのあったかい背中がひゃっとします
でも犬は、人の100万倍も嗅覚が鋭くって
遠く、南半球から流されて来る
春の卵の光の粒を
空中高く跳ね上がって
パクッ パクッ と、食べています

*犬の臭覚は、今では、数千から一億倍と言われているようです


8. 鳥たちと僕との関係は
 

鳥たちと僕との関係は

おんどりにしてみれば、羽シの
       厳粛な美声を出し抜きたまさか勝手な奇声を発して
       恥ずかしい毛のない手羽根をばたつかせて
       朝を明けさせたつもりでいい気になってる
       下手糞脳天気声帯鶏真似野郎だし

めんどりにしてみれば、羽(わ)チキンの
       ふくよかな胸肉と羽(わ)が子を
       ヨダレ垂ら垂ら虎視耽々鼻孔ヒクヒク狙う
       うっとり助平イタチ蛇道ケツネ爺でありんし

カラスにしてみれば、
       気持ち良う朝のマックバーガーモーニングしとんのに
       何や知らん、トロイ猫みたいにケツ出し匍匐して来て
       当たりもせえへん石を投げよる
       ヘタッピ大ボケごろつきスカ野郎やんかやし

オウムにしてみれば、
       ぶっ毀れたレコードよろしく
       よう飽きもせんとオハヨウ、コンチハ
       でか図体頭ふりふり繰り返しとる
       大バカうざった粘ち粘ち野郎やし

鳥たちと僕との関係は
       スズメやヒバリ、ブンチョウやシジュウカラやルリカケス
       モズやメジロやウグイスや
       ヨシキリやツバメやハクセキレイや
       や、や、や、の小鳥達にしてみれば
       ぼくは決してお腹(なか)満プクット穀物ではなく
       あのおいしいおいしい青虫やバッタや跳び虫
       ましてや喉仏ふるうる震える熟した果物でもない

事程左様に鳥たちと僕との関係は・・・・

9. ラットリットらぁ
 

百匹のねずみがいて
ラットらぁ、ラットらぁ
もし一匹が迷わば
ラットりぃ、ラットりぃ
天井裏に九十九匹を残して
ラットらぁ、ラットりぃ
行きて迷える一匹を台所に尋ぬるか
ラットらぁ、ラットりぃ、ラットラットらぁ
もしその一匹をネズミ捕りの中にではなく
ラットりぃ、ラットらぁ、リットリットりぃ
残飯入れの中にでも見つけようものなら
ラットらぁ、ラットらぁ、ラットリットらぁ
天井裏の九十九匹に勝りて
ラットりぃ、ラットりぃ、リットラットりぃ
残飯入れの一匹は幸いである
ラットらぁ、ラットりぃ、ラットリットらぁ
ラットりぃ、ラットらぁ、リットラットりぃ

10. てんとう虫2
 

てんとう虫、てんとう虫
転倒するな
ほらまた強い風が吹いてくる
ゆらゆら揺れる草葉の塔を
スカーフなびかせ螺旋に登れ

てんとう虫、てんとう虫
お家へ帰れ
お前の家が燃えてるそうな
大急ぎで駆けつけないと
子供達が違った風に吹かれている

てんとう虫、てんとう虫
足踏みするな
タンポポが黄色い疑問の渦を巻いている
真っすぐに背筋を伸ばして
七ツ星の赤いドームを開かなければ
春風タクシーはつかまえられない

* マザーグースを借用


11. 迷子の蛍
 

闇夜の径を
迷子の蛍
マッチを擦って
あっちへふらら

来たとこ戻ろか
この先行こか
舗装の道は歌ってくれない
山の背中は寝息を立てて
無口な星が瞬くばかり

住まいをなくした
最後の蛍
おいらの伴侶は何処にいるの?
祭りの記憶はU字溝に流れちまって
泣きべそかいて細ぼそ灯る




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