絶望の真皮にただれた人よ 希望の仮面にかぶれた俺をどうして笑えるだろう あなたは深く陥没した暗い頭蓋を傾ぶけるが 俺は骨すら融けてしまったマッシュルーム カルシウムが融解する カルシウムが溶出する だからこそ仮面を叩き 惨めなあんこを身体中に塗りたくって もう一つの仮面を呼ばうのです 夜更け 剥ぎ取られた着衣の脇に 二つの仮面を並べて のっぺりとした顔を見合わせ お前は俺の脂ののらない尻を抱かえ 俺はお前のぬめぬめの脇腹を押さえて のっぺりと喘がれたセクスを重ね そして 絶望の真皮にこわばる人よ ぼく達は深く 君は僕によって刻まれ 僕は君によって刻まれ仕方がならないんだ
お前の すべらかに目の詰まったストッキングを俺は破れない お前の すべらかに目の詰まったストッキングを引き裂いて 浮き出た白い肌から流れる 血や涙や精液や生理液を 悪魔や天使や無頼漢やロマンチストの舌でペロペロ 俺は舐められない 白昼の広場に立てられた日時計が闇に没しても デジタル時計の液晶は正確に均分された時を刻む 押し着せられた小さな田螺のような道徳の目をしょぼつかせ 剥き出しの腱や血管や内臓の摩擦に傷つくことを恐れて オブラートのように理性の皮膚をまとっている俺を あなたは遠く対岸でじれている
オレンジ、メロン、ストロベリ−、バナナ 君は少し美しい 腫れぼったい瞳をした空の朝 肌色のマニキュアが剥がれて 妊娠したセロリとにんじん 朱色の経血が流れて オレンジ、メロン、ストロベリ−、バナナ 弱々しい君は美しい ここでいいから、と言って別れた夜 君は寂しいコートを引きずって 薄暗いホームの階段を沈んでいった オレンジ、メロン、ストロベリ−、バナナ パープルシェイク、フレンチフライの細っそりとした指の君は まるごと何もかも受け入れて欲しい、とテーブルに抗議し ぼくに引っ張って貰いたい君を ブルーシェイク、フレンチフライの折れ曲がるストローのぼくは ハンバーガーを片手にうまく飲み込めずにいる
ひとりの女と遭遇し ぼくは君が解らないし たぶん君もぼくを理解しないだろう でもぼく達、どうしようもなく男と女で 君はぼくのペニスを欲し ぼくは君のヴァギナを欲望する 年に幾度のまぐわいの 抽象的に停止した不毛の関係の それでも 君の背中の窪みに一筋 いつの間にか合わさった透明な汗粒が流れ 徹底的に即物的なぼく達の粉体の土地に 人間というやつのいとおしさが しずかに、しずかに 沁み込んでゆくんだ、チクショウと
闇の中を 二つの野獣の星がぎらめき 救いを叫んだのは女か? 男は闇から逃げ出し 光ある場所を求めた 光景は 薄っぺらな砂漠が拡がり 体臭は奪われ続けた 果たして 光ある光景はないのか? 砂に埋まった左眼で 男は闇の逃走を悔やみ むくんだ右眼で あいまいな視界を 尚もうっすらと凝視した
行かないで どもる唇は言ってしまった ―― とうとう つなぎの手品のように 間に合わせのハンカチから取り出された金塗りの卵 空中に金粉が安っぽく飛び散る ほんとは赤熱していたのに ―― ぼくの真空管 I love you ―― 愛していたのかもしれない 二度と空気を波動させ得ないかもしれない 声が、声が 気の遠くなる程遠い 抑揚を失ったエアポケットのような声が 君の呼気は止まり 回転扉の向こうに裏返った 黒い瞳 引いてゆく海へ 息を荒げた肩が 収束する線のようになって 行ってしまった ―― 君は 平和な波が 繰り返し、繰り返し 貧しい海浜の足跡をさらい 新しい千鳥が 無数回の刻印で渚を均す きわ ―― くっきりと分かたれた 単調な波打ち ほどかれた視線が水母のようになって漂う木片 信じられるか どこかで君のいる ―― 湾曲する海 膨大な水中が拒絶する からから ―― 濡れたまま 水分が吸われてゆく 噴き出てしまう結晶 夜光虫が隅取る ―― 幻想する君は美しい 君の肌が温める海水 と ぼくの身体を冷やす海水 青空はすっぽり海表面を覆う 膨大な水中が拒絶する 逆流する海流 海洋が燃え 南氷洋の氷壁が崩れ
ガラスの中を 透明な列に押されて 狭まってゆく チューブのような道を カーテンが下半身に絡み付く 前のめりになったまま ギブスに固定されて真っすぐな首筋の 葬列が流れてゆく 1日1個の石ころを 足が蹴転がすのを眺めている 着衣の上から物欲しげな健康骨が浮き出ている背中 柔和な日差しの中に転がされた手が 天井から吊るされた年来の火球をつかみ 背中めがけて投げつける 背中はどうと倒れ 背肉がめらめら焦げめくれ 日々の図の炭化しめくれ返る裏から 艶やかな暗黒のゲシュタルトの地の紅花の花開く 筈だった地点はもう過ぎてしまったのか? 面積のない線のような 体積のない面のような 火球は背中を透過し ガラスの虚空へ回収されてゆく 背中は何事もなかったかのような素振りを纏い 健康骨をギクシャク 人生の処方箋を肋骨に貼り付けている もっと狂暴なやつを! もっと狂暴なやつを! 太ってゆく四囲の壁を押さえ付けながら 追いすがろうと腕は*健康骨は私的語
1つの大きな情熱が高々と闇に燃え 照らされて 人間の横顔が裸形の輪郭で輝く 群集足下の 私のへび花火が引火する へび花火はぶふぶふと黒いあぶくを噴き 伸びようとして地べたに腹を擦る 旋風が吹き 情熱は鋼鉄の火球となって炸裂し 地上に飛び散り地上を燃やす へび花火はふわふわと千切れとぶ やがて共にくる闇 口惜しい闇 燃焼の闇 安堵の闇 闇 だが 友よ 嘆くな 自己と宇宙の距離を 用意されなかった食卓を すべては闇に捧げられている のか? ついに
垂線が倒れ 垂直に見上げた もうどの尖塔の螺旋にも登らなくていい ぽっかり抜け落ちた中庭に座って 四角い空を見ている 急ごしらえのフラワーポットに 美しく咲かされた三色すみれ 底地を吹き渡る無色のビル風に いっせいに吹ぶかれて小首を傾ぐ 微動だにしないコンクリート製ベンチの上に座って ものすごく ボクハ 悲しく 自由だ
誰もいない座席に 悲しみが一つ置かれている 此処の人はどこへ行ってしまったのだろう 見渡せば、あちらの座席、こちらの座席に 律儀な方解石が座っている 青白い燐光を放ちながら とっくに幕の下りてしまった劇場で それが悲劇だったのか喜劇だったのかもわからず もぬけの舞台を 固定された空席が 身じろぎ一つせず見つめている 置き去りにされた 誰のものともつかない悲しみを眺めていると 私の方解石が物悲しい発光を増してゆくんだ そう 早い話 私も私の石を置いて退出すればいいんだ 桟敷の天井の低い通路から 生活の音が荘厳な賛美歌のように鳴り響いてくる 何のことはない わずかな白髪と無精ひげを蓄え 物質的な面持ちで昼の借金を返しに行けばいいんだ 時の帳尻をあわすために 白昼 既に空白は対照されており 見知らぬ世界からの利息は差し引かれている 古ぼけた看板の脇を 入替えの若者達がすれ違ってゆく 振り返って見ようか見まいか? 仕方のない事だが 新しい青春と書き直されてあるのかないのか 延々と続く通路を 明るく囲まれて 支払われた方解石は 当然の権利のごとくかすれてゆく
明るい波が ひたひた 襟首を洗い 後頭部が崩れて 空室アリの看板 夜中に救急車のサイレンが駆けて行く 遠くで人さらいがあったようだ ゼリーの吃音を抱かえて 胎児のような脳がくるまる 仄暗い夢の温床から 目玉を付けたもやしがにょきにょきと生え 水気のない風に 風景の繊維がほぐれてばさつく 頭を掻き上げる度に髪の毛がごそっと抜け 手が気違いのようになって 止められずに泣きながら髪を梳き上げている夢を見た 錯綜した森にポッカリ出現する円盤基地 てかてか光る斜面が緩やかに上ってゆく あばらを剥き出した貧相なヤギが テレパシーに脅かされて 硬化プラスチックの蹄の音を響かせながら 夜の斜面を登ってゆく 一つの丘の上で 一本の木に残された最後の葉っぱを喰らい めぇ〜と鳴いた ワックスの匂う繰り返される斜面を 明るく澄んだ液だまる底へ 俺達の共同の墳墓へ ああ、ヤギさんも傾斜してゆくよ
自動彫刻機が/かそけき/定音を響かせて私の/輪郭を刻んでゆく もう半ば/やり直しの利かない/程に刻み込まれた 私のでないマニュアル/通りの型に私は/少しの興味も抱くことが出来ず あらぬ方を見ている 日々の底を/滲出してゆく不凍液 ヂエチレングリコール/ぢえちれんぐりこおる 唇が精一杯/つぼみを真似て/囁いてみたが ああ あなたの草色の目は わたしには解釈できない。 床上に「愛」/と書かれたプレート版の投げ出されて すっかり検索の行き届いた/ルビの振られた毎日/が私の窓に貼りついて 継ぎ目のない四壁/に賑やかに飾られている 消費してゆく/のかこの中で/ショウヒシテユクノカコノナカデ 飲みさしのぬるいスープを/白いテーブルクロスの上に ぶちまけてみたかった/朝の食卓 心地よい/勢いの染み/が拡がってゆく 消化されなかった具/の周りに 曖昧な悲しみの領土/が滲んでゆく そんなもんさ 傍らの中型スプーンが/カタカタとにきび面の批評をする 白いミルク液/に漬かったストローを抜き 細い穴/からポスタア世界を覗く 時の微粒子が降っている 印刷されてない色が吸いたい 喉元に/時の微粒子が降り積もる どこにも/印刷されて/ない色が吸いたい いつまでも片付かない食卓*ヂエチレングリコール;高級赤ワインの味に似せる為に使われた添加物
小さな少女が 小ささが失せ 他人のものの心で 何だかわからない涙を満たし 瞳を手放し ひゅーひゅーと怒りが鳴り 唇を忘れ 歯間に雨が降り うなだれた男を見つめながら 真ん前で遠ざかってゆく 身じろぎ一つせず 彼女にもわからず ましてぼくにもわからない この者は何と言う生き物なんだろう? 遠い昔の 埋もれてしまったぼくの孔を覗き込み この腕では届かない底に、底に 裸で裏返ってしまった 生命の 何という静寂
街中から 1本の道 <が> 外れ アスファルトの 楽しかった とても平たい 優しかった 雨のしまない 肌理が乱れ 罅 割れて行く 無数の割れ目 ツチノナカ <に> 沈み込んでゆく マヨイ ポカーン <と> アスファルトが途切れ 黄土が乾いている 草の芯が光っている 径の路傍に 盲人がひとり 座っている ひかり <を> ください ひかり <を> ください たなごころをうわ向け 美しいふたつの手のひら あかい 葉脈 <が> 輝いている 青白い二の腕を 消えかかる肩に支えて 集光している ・収光している ・周光? ヒカリ <ヲ> クダサイ ヒカリ <ヲ> クダサイ 雨が降っても じっと 濡れて しゅう光している 水子地蔵霊場 こけ脅かしの でも 百のアスファルトの胎児が 百のアスファルトの乳児が 頭のおおきな 小さな模造の地蔵が 安っぽい 百の 同じすずやかな灰色の目鼻立ちで 並んでいる 弓なりに ならんでいる 段々に ナランデイル 新しい涎掛けを着けて ヒャクの 汚れた帽子を着けて ヒャクの 永遠に真っさらな男の子と女の子の名前を木札に付けて 朽ちてゆく ヒャクの お母さんはアスファルトにいる お父さんはアスファルトにいる フフフフ フフ ふふふふ ふふ 模造の石の唇が一斉に笑う さわさわ 風が起き 百の赤いセルロイドの 百の青いセルロイドの 百のピンクのセルロイドの 長い首のかざ車 からから 傾いた首のまま カラカラ カラカラ まわる まわる まわる ブリキの自動車が脱輪している ビニール人形の青い目 水色 空 <だけ> を 見ている* 収光、周光は私的語
しろい みち ひとり 白い首筋 を横たえ 野原(やげん)を通交している 何処 へ 何かがキラキラ輝いて ああ 石英が光っているんだ ハンミョウが見えない糸を懸けて ワッショイ 薄っすら埃を被ったつま先を ワッショイ 引っ張ってゆく ひしめく草々の じっとり 賑わう音 音のゼリー 黄色い花が いくつも首を伸ばしていた 真っ青に傾いてゆく空 に ふっ と糸がほつれて 思い切り軽やかな径の途切れ を じっと 見ていた 時が ゆっくりと 巡ってゆき ミニチュアの葬列が 遠回りに 行く のが分かった
歩き疲れて 青空が見守る 人気ない停留所に座っている 夏の風が どこからか波音を運び 心の縁取りが ゆらりと湾曲してゆく 眼下に かすんだ半島が突き出し 時の停止を引き連れた 無声の海がせり上がってくる そこには ヒマワリやダーリヤやハイビスカス のジャングルがあり まめ科植物のつるが ほっ ほつれ毛のように ふっ 浜風に揺れている まるで岩間の記憶のように ひっそり 遠い入り江が横たわり 青碧の海が息をひそめて 気のない空をすっぽり引きずり込もうと 波頭の白い罠を仕掛けている ああ そしてそんな悠久の横を 何食わぬ顔をして 乗合バスのような雲が通り過ぎてゆくんだ 遠い遠い 夢のジェット気流を ひたすら南下しながら
約束しました 夜と 指きりげんまん 私はもうすぐ眠ります 何もかも忘れて 化石の眠りを 深夜 寝静まった街で ぱたぱた 足音を採取しています 月の光をたっぷり吸って、凍えたガアゼのよう 1枚1枚、丁寧にピンセットで摘んで剥がします バリバリ、と 悲しい音が剥がれます 虫ピンで突き刺して 空き箱に収めた足音のコレクション 夏期の終わりの孤独な自由研究 あと、ホルマリンが必要です 是非とも
生きていると 音のない雪が降ってくる そこにある角っこを曲がろうか 曲がるまいか ずっと以前から考えていたような気がする 繰り返し行き違う ふっと消えてしまうさみしさ ―― のようなもの そして又 角を曲がり 時には明るい屋根の下で 思いっきり笑ってみるのもいいかもしれない そんな相手がもし一人でもいるなら 雲 もう何千回流れて行ったっていい
ぼくはアブラナ科 だから 春 になると 背中の肩甲骨の凹みがむずむずして まどろう時の街角 くるりまわると とろけたバターの陽の吹きだまり 尾てい骨が歓喜して ブン、フン 見えない羽音を唸らかせ 忘れてたブラウン運動 思い出す 旋回 旋回 目の端っこの 浅い青空
20年生きて 言葉は歓喜の力だった 30年生きて 言葉は悲しく不可解だったな 40年生きて 言葉は言葉になちゃった 「やっと」と言うべきか、「とうとう」と言うべきか 「当たり前のことだろうが」と、日々に慣れた俺が言う 「時代のマジックに目を奪われて見えなくなっちまっただけだ」 と、相変わらず意固地な俺が言う その落差は小さい 日々の舗装を引っぺがして地面をほじくり出しても 土はもうひたひたと素足に心地よい昔の土じゃあないだろう 乾燥すらもが乾燥しちまって 言葉はもう言葉でさえないのかもしれない どうしようね これからぼくの身体を ビデオカメラのように持ち運ぼうか 不慣れな手付きで 膨大にたまってくる艶のない日々のビデオ 埃を払いながら再生する皮膚のざらつきを 挨拶代わりのナレーションで済ましてしまうわけにもいかないんだが 怒りに慣れ 孤独に慣れ 悲しみにも慣れ 誤魔化しにも怠惰にも慣れ、慣れ 疲労にさえ慣れっこになってしまった 生きることにたかを括っている ねえ、君さあ 君の真皮に柔らかい事件は可能? 言葉は蘇る?
1人称のアイが立つ 2人称の君は行方不明だ 方程式には解がない フガイナイ 喜望峰からはみ出してしまってから ナンネンも まだこんな所にいるのか 縮小しちゃったんじゃないか 君の地図は テーブル皿から転げ落ちたやっこのような 手の平から滑り抜けた肉まんのような スピードに轢き殺されてはらわたのはみ出た猫 幹線道路では誰も見向きもしない 3人称は常に前方300メートルを注視しなければならない 記憶もフケのように剥離してゆく 陽だまりの好きだった猫は どうしてこちらの陽だまりからあちらの陽だまりに渡ろうとしたのだろう とぼとぼと歩く傍を超高速の原子が飛び交っている 1人称も変位しなければいけないのか?
この現実を ぼろろんと逆剥けて 駆けて行く背中の加速度で パリンと薄氷を割って 成長してゆく時間の 逆子になあれ コンパクトな感情 持って行くのかい 旅行かばんに詰めて 本当のことなんて解りゃしないさ いつも未来のどんぶりを食べて 生きて 死んだら チンチロリン だからたまには 夜が音をたてて崩れるナイアガラの段差を まっ逆さまに流れてゆけ 空虚が流れてゆくよりも もっと速く
固定した地面が見失われて 都市上空を滞空しています 新奇なものが目まぐるしく擦過して 視界はきわめて不良 管制塔、管制塔 応答してください 生活は現代のどこに着地すればいいのですか 地球号、地球号 新世紀面はガスが充満している 人類残量をチェックせよ 衰滅平衡点を解析せよ サーカス圏への突入を準備せよ 私たち思い出が激しく燃焼して ヨロシイ 旧い身体の堆積層に 思い切り単純な虹をかけよう 真っ赤ささまにぼろんと逆剥けて あなたたち、あなたたち コンパクトな逆子になあれ
同じ方向が毎日私を追い越してゆき すっかり角が取れて足早に転がる丸い生活 あっという間に月日が擦れて 何の前後の区別もつかない つるつるした記憶が倉庫にたまってゆく 深夜のテーブルで 考えるなんていう贅沢は ミンチ肉を捏ねるのに忙しい 私のメニューからは消されてしまった それでも季節は時折 すばらしいプレゼントを送り届ける 通勤途中の道すがら 朝の陽射しが睫毛に引っかかり 私はいつもの道を歩きながら 目玉のサンルームで日向ぼっこしている 見慣れてしまった風景ともいえぬ視界が 秋陽のレンズに初めて映されていくかのように こんなにも違って色立つ不思議さにまばゆく 全身を風景にくるまる 爽やかな秋風が 店晒しにされた 私という感情と世界との未解決な隙間を こともなげに吹き抜けてゆく
ものみな濡れて 陽は輝き ものみな色の 洗われて 白い細手の愛撫する 光の街区に影が交わる 通勤びとのコートが行き交う 初冬の嵐は一夜明け こんな都会の朝でも時には 母の青の空のうつむく ここはいつか来たことがある 少年の頃、いた事がある