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青春スクラッチ/1969
1. 僕は僕の道を行く     *** 赤色 は自選、クリックで開きます。(開かない時は▲をクリック)
僕は僕の道を行く
僕は僕にできるだけ素直に、できるだけ謙虚に
そして、できるだけ自然に
この世界に僕という人間が一人しかいない限り
僕の道は一つしかない
この大地は彼らが踏み固めていった
しかし、同じ足跡は決してたどるまい
彼らが3歩で行ったなら
僕は2歩で行こう
彼らが1歩で飛び越えたなら
僕は10歩で踏み固めてやる
僕は人間だ
僕という人間は僕しかいない
だから僕は僕の道を行く
僕が新しい足跡をつけてやろう

2. 裸の道化


さらけだせ さらけだせ
僕の裸をさらけ出せ
骨と皮ばかりで
ガリガリな体でも恥と思うな
見られて恥ずかしいのなら
恥ずかしいのをさらけ出せ
笑いの中の道化でも
君は負けない真の道化だ
裸の道化だ
太陽を皮膚で浴びよ
僕の本当の姿だけを大地に映せ

3. もっと生きたいんだ


地面に
サラサラ乾いた土の上に寝ころがってみよう
汗の上に
土がまぶしかけられて
僕はごろんごろんと煙をあげて
小石を跳ね飛ばして転げまわってみよう
ああ
土の熱を感じたい
砂にまみれて白く粉をふいているその膚で
大地のほてりを感じたい
生きたいんだ
我慢して立っているよりもっと生きたいんだ
生きる力を這いずりまわって探しているとき
僕は確かに生きている

4. 何も言うな


もう言うな
もう何も言うな
お前が言えば嘘がでる
お前が口を開けば虚栄がでる
もうたくさんだ
もうごめんだ
何も言うな
一言もしゃべるな
無口になっても
付き合いづらい奴だと思われても
孤独はこわいけど
孤独は恐ろしいけど
やっぱり正直がいい
ささやかでも
本当の言葉がいい

5. 跳べよ


跳べよ
跳んでみろよ
跳びきれないのは百も承知だ
鼻っ柱を地にのめりこまして
尻をささえるかっこうは必至だ
わかっている
俺にはそんな力量なんぞありゃしない
しかし俺は跳びたいんだ
跳ばなくてもこの時は過ぎてゆく
地にのめりこんでも明日は今日ではない
鼻をさすっている俺は今日の俺ではない
跳ばなければ永遠に今日だ
また言い訳のお情けを受けようというのか

6. わが道のどこにあり


わが道のどこにあり
このとぼとぼと歩く先がわが道なのか
このとぼとぼと行きつく先がわが望むとこなのか
野垂れ死にはいやだ
しかし、おおよそ野垂れ死にが人の道なのだろう
俺だけは野垂れ死にはしない
俺だけは野垂れ死にしなくて済みそうだ
そんな気がする
ささやかな期待に曳きずられて
いたたまれない不安に追い立てられて
今日もとぼとぼと歩く
わが道のどこにあり

7. 本当の行為


いつも見返りを期待している
見返りがないと不愉快になる
どんなに人がありがたがろうと
どんなに人が僕の行為を見直そうと
それが本当に誠実からでたものでないと
もう一人の自分がちゃんと知ってる
どうかわからせておくれ
いつもいい子ぶってるこの僕に偽善者のいやらしさを
そしてどうか教えておくれ
誠実に賞賛がないとふくれっ面をしているこの僕に
無償の行為というものを

8. 虚栄の虫


少しばかりの本を読んで
少しばかりの知識をかじって
少しばかりの論理をふりかざして
少しはまともなことも言えるようになったが
お前の本質は
己を粉飾し、ほのめかし、ひけらかす
虚栄の虫は
骨髄に巣食って
真紅のハートに
欺瞞の糞をたれてゆく
この汚辱を
さらにお前は
知識のペンキで
塗り固めようというのか

9. 僕は自分を偽って


僕は自分を偽って
偽って、偽って、暮らしてきて
いったい、いつから自分を偽るようになったのか
それとも、もとから偽っていたのか
いったい、何に対して自分を偽っているのか
それすらもわからなくて
それじゃあ、ちっとも偽ってたりなんかしてないじゃないか、というと
やっぱり、何かごまかして生きているという気がして
なにかなんてやっぱり誤魔化しで
わからないなんてのも嘘っぱちで
ほんとはちゃんと感づいている
だけど、それを確かな形で意識の上にのぼらせるのは
のぼらせた以上、放おっておいたらどうにも身体窮まってしまうので
それを、うすうす知っているから
僕はわかってない様に思い込む
だから平気で自分を偽って、などと軽々しく口走って
実際の生活は、明日の生活も、明後日の生活も
相変わらず安穏と過ぎてゆく
こんなものを書いたからといって、
             明日の僕が新しく生まれ変わる訳でもなし
全くのところ、字づらのお遊びもいいとこだけれども
でも、この臓腑に鬱積するもやもやを
どうして発散したらいいのか

10. 旅の出で立ち


旅に出かけてゆく時は
しゃれたシャッポは僕には不要だ
昨日、ゲロをあげそこなったままのなりが一番相応しい
とはいうものの
こうこうとした帽子屋のウィンドウが気になって
やっぱり、800円出して買ってしまった
まっ白いとんがり帽子を大事にバッグにしまいこんで
汽車にゆられ、船にゆられ
しわくちゃな帽子を取り出して、車窓の闇に映してみたら
しかめっ面には不釣合い
どんなに遠くへ行こうとも
日常が後を追いかけてきて
気軽な旅人にはさせてくれない
僕は孤独をもてあます
座席の向こう側では、赤いシャポや黄色いシャポが
はしゃいで左右に揺れ動く
ガタゴトガタと
旅の律動にくるまれて
無粋の僕も楽しい彼女らも夢幻境をまっしぐら

11. 馬がいる


馬がいる、馬がいる
高天の太陽をいぶし銀に反射して
ビロードにふくらむ純黒の刻印を躍動させる
青草の中を馬が駆ける
暖かい風が一息吹いて
草息れがさあっと飛び散った
馬は
ぺチンとたたきたくなるような、巨大な尻をつやつやさせて
蟹股ぎみの脚で、盛土の上にスックと立った
やにわに、ヒヒィ−ンと一声いなないて
くるりと、こちらめがけて動き出す
バッカ、バッカと、巨体の重みを響かせて
バッカ、バッカと、私に迫る
ああ、馬がいる、馬がいる

12. 明け方のトンボ


明け方降った雨でできた小さな水たまりに
何の変哲もなくトンボがいる
透き通った羽をくゆらせながら
僕をいざなう
だけど僕がどんなに目を細めて眺めようとも
トンボは僕に見てもらうためにそこにいる訳じゃない
私なんぞがいなくても
私が飽いて去った後でも
トンボはあつらえの舞台で優雅な滑空を演じ続けているだろう
水たまりに突き出た枯れ枝に
まるで全自然を代表しているかのように
しおからトンボが
そしらぬ顔してとまっている

13. 繰り返しの日々


毎日はほんとに
昨日も今日も、そして明日すらも予定されてる
予定通りに未来にうごめく升目の羅列の
私に指定された四角い空間
黙っていても進んでゆく
愚だ愚だとした日々のからくり
いったいこれでも生きているのかしらん
ほんとに僕は人間なのかしらん
予定外の明日が必要
日々を忘れさせる変化が必要
そのエナジーは
生きることへの情熱は
とっくに枯れちまったから
ハハハ、仕方ないから
開き直って八方破れ
思い込んじまえば
この一瞬は2度とないのだから
明日という日は
僕の人生上1回きりしかないのだから
どうせ過ぎちまうのなら
めめしい考えあっさり捨てて
華々しくいこうじゃない
破格をつくりだそうじゃない

14. 不安のキレツ


僕が生きている証は
僕の涙にある
僕が生きている証は
僕のあえぎにある
涙とあえぎを求めて
生きようとする日々の連なりの果てから
不安のキレツが押し迫りくる
僕はおじけづいて、おじけづいて
ああ、たった今
生きようとすることを放棄しようとしている

15. 植物が生きるがごとく


俺はこれまで生きてきた
ちっとも華々しくなく、人並みほども楽しくもなく
生彩なく、なんともぼやけて
この先、このさえない俺がさえないなぞを通り越して
どうしようもなく、うつうつと暮らしていくことになっても
それでも俺は
植物が生きるがごとく、生物が生きるがごとく
無感動に生きてゆけるのだ
うじ虫のごとく
白々としたふやけた体をさらして地べたをはいずっていこうとも
混濁したどぶ水のごとく、汚臭を放って沈滞しようとも
それでも俺は生きてゆくのだ

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青春スクラッチ2
1. ちっぽけな毛虫よ


木枯らしの吹きすさぶ中
かって
木の葉の巻き返しの中から
首をもたげて不穏な空を見つめた君よ
雨後の水滴に自らの卑小な姿を映して嘆いたちっぽけな毛虫よ
その時君は
内奥から突き上げてくる欲求を満身にたぎらせて
蛹になった
飛翔の日を、変態の時を、世界へのはばたきを
心、密かに夢見て
不安も、期待も
すべてが君の生命の証だった
そして君は飛び立った
君はわが身の身軽さに
嬉々として羽根をくゆらし
薫風に誘われて
曇天高く舞い上がった

それから幾歳
何時しか君は、うつぼ蔓の虜であった
甘い液汁に酔いしれるまま
君の身体はとろけてゆく
君よ
かつて羽ばたいた君よ
君の生命を押し潰す
ぐるりの壁が見えぬのか?
ボロボロにとろけた羽根の哀れな虫よ
微弱な力を振り絞り
刺の壁を攀じ登れ
頭上にポッカリ抜け落ちた
漠たる空に再度飛び立て

2. ぼくらは甘党


ぼくらは甘党
チョコレートとケーキで育てられた
甘い芳香に魅惑される
苦い味覚を奪われて
しょっぱい味をつゆ知らず
清潔なオートメーション工場からはじき出される
衛生無害なおいしいお菓子を羨望する
ぼくらの眼は素敵なお菓子のメリーゴーランド
ちょっと背伸びして1つつまめば
ぼくらの頭はすうーっと高みに持ち上げられて
ぼくらは幸せ
ぼくらは幸せ

3. 僕は日本人


僕は日本人
ごわごわの甲皮の下で
出来たてのプリンのように
プリプリふるえる”否”の原質
空気に触れると
カランと1つ空虚な音を立てて
”否”の欠落
硬直したカーテンがサッと引かれて
青白い幾千万本の触手が
いっせいに拍手と喝采に揺れ蠢き
頬と耳朶に
懐かしい、こそばゆい、生の息吹き
頭上の暗がりから
機械仕掛けの巨大な手が降りて来て
頭をなでなで
いい子ちゃん
君はいい子ちゃん

4. ぼくらの世界


ぼくらは泥沼に足をとられて歩きたかった
ぼくらは茨に絡みつかれて
頬に痛みを感じたかった
だけどぼくらの世界はペイブメント
ぼくらが歩き始めた時
すでに世界は舗装されてた
ペイブメントをほじくり返す
そのツルハシはあまりに重たく
その一打ちは
あまりにぼくらに撥ね返る

5. 第一歩


若者よ
君のナイフを研ぎ澄まし
君の嘘と臆病をてっ抉せよ
醜くふるえる路上の汚物につばを吐きかけ
我らの巨大な鉄骨と
ペイブメントの世界の路面ににじりつぶせ
そして
干からびた汚濁の踵の第一歩をしるし
恥辱の川を渡りて
我らの栄光を掴み取れ

6. 情熱機関車


今日も走るよ情熱機関車
惰性の残り火釜に閉じ込め
目指すはかなた地平の果ての
黄金色の生き証
錆びたレールに身体が軋むよ
ざらざらの砂塵に涙が出るよ
それでも走れよ情熱機関車
レールはとっくに埋まっちまって
あれは揺らめく蜃気楼
無意味な空が拡がるよ
邪悪な悪魔が笑っているぜ
脱線てんぷく、脱線てんぷく
よろしい悪魔に肩入れしましょう
反吐にまみれ、汚辱にまみれ
明日も走れよ情熱機関車
黒いケムをもくもく吐いて
犬死してなるものか
犬死してなるものか

7. 手持ちの青春


誰か僕に時をくれないか
僕の無知を縮小する没入の時を
僕の脆弱を鍛えなおす冒険の時を
僕のペシミズムを覆す生命の時を
僕の怠惰を許容して余りある
充分すぎるくらいの時を
誰か僕にくれないか
僕の手持ちの青春は
二十歳の時は
すくいあげた砂粒のように
あまりにあっけなく不確かに
手のひらの指間からすべり抜けてゆく

8. あのドンでお前は


思い起こせ
頭の芯にこうこうと鳴り響く
若き日の一瞬のドン
あのドンでお前は
五体にエネルギーを逆巻かしてスタートしたのだ
ゴールを持たない長距離走
俺に保証されたものは
黄金の地平でもなく
花咲く憩いの場でもない
ただ一片の出場資格だ
今を風切る汗の流出だ
ゴールを持たない長距離ランナー
走れ
走りつづけよ
さらに泥濘の奥深く
さらに苛立ちの只中に
生命競争の真っ只中に

9. 工場の外


転げ落ちたら人工照明も届かぬうす暗がりだよ
工場の構造上そうなっているのだから
不良品の行く末はスクラップと相場は決まっているのだから
だからしがみついてしまうんだ
しっかり掴まっていさえすれば
前へ前へと押し出されて
いたるところから伸縮してくる成形器で
刻々と外形を型造ってくれるよ
押しも押されもせぬ立派な大人への工程に向けてね
この律動は嫌になるくらい心地いいよ
何もかも解消しちまうんだから
しかしなあ
しかしだよ
俺の足を見てくれよ
転げ落ちないように踏ん張っているだけだから
筋肉が退化して萎えちまってさ
”工場の外”があるなんて嫌ンなっちゃうじゃないか
俺は健脚じゃないよ
工場の外へは健脚向き登山だからな
やっぱり震えちまうよ
しかしだなあ
しかしだよ
ちょっとのユウキがありさえすりゃあいいんだけどね
ユウキがさあ

10. ハィ フォイ ハィ


俺の描いた軌跡は
地虫の這いずった大地ののたくり
取り返しのつかぬ日々が石化した
つま先から硬直が拡がる
凝固が未来を浸潤する

ハィ フォイ ハィ
ちょっと逆立ちしてみりゃいいさ
本当に大事なことなんてたいしてありゃしないさ
君がタイム
君が世界
君が人生
そう深刻ぶるなよ
マリリンモンローの内股がつややかに光っているぜ
恥毛の数でも数えてやりゃあいいのさ
お偉いさんのインキンタムシ
未来にびくつくこたあないよ
ハィ フォイ ハィ だ


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