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Part1
孤独のPOND
1. つむじ風    *** 赤色 は自選、クリックで開きます。(開かない時は▲をクリック)
つむじ風が身体をかけ抜けていった時
僕は大声で呼ばったよ
そしたら僕の呼び声は
聳え立つビルディングの壁面に弄ばれて
はね返り、はね返り
四角い空のアスファルトの路面に
カランと一つ空虚な音を立てて
ころがったよ
寄り添った靴とハイヒールが
無数の靴とハイヒールが踏みしだいて行った
僕は意識なんか捨てちまって
温かい緊密な体内に
でんぐり返っていつまでもそこに
転がっていたかったよ


2. つむじ風2


孤独なネットにがんじがらめ
酔って本音を吐き出すか
アルコールのプンプンする自己弁護
他人のおしゃべりがすっかり信じられないことを知ってる俺達は
他人の日々の暮らしをちっとも知らない俺達で
人間を想像するなんてできやしない

心の隅をクルクル回るつむじ風
酔うて、から元気、から騒ぎ
アルコールのプンプンするつむじ風
こんなに大勢の人間の中で
一人クルクル回る無彩色の
語ろうとすると色がつく
逃げようとするとしっぺを返す

3. 街角の孤独


彼女は風のようにやって来た
僕は石のように通りすぎた
つむじ風が舞いあがった
悔恨のつむじ風が舞いあがった
顔が醜くひび割れて
乾いた涙がくだけ散った
いくつもの美しいハイヒールが踏みしだいて行った
僕はまた砂漠になった

見知らぬ女がやって来た
僕のペニスはでんぐり返って陥没した
入れてくれ、入れてくれ
男達が来て挿し込んだ
僕の膣は渇いていた
アルコールで浸すしか仕方なかった

4. 地下列車


連結器の鉄塊がいがみあい
鋼鉄の車輪がひっきりなしに歯軋りする
ヒステリックな轟音を巻き上げて
地下列車は走る、走る
横長の車内は
人工照明が奇妙に明るく
合わせ鏡の迷宮のように彼方の車両が蛇腹に重なり
回廊のような側壁を遠近カーブを描いて
暗いガラス窓が小刻みに上下に揺れ並ぶ
まるで闇に嵌め込まれた地中水槽
仄暗い水中では
ひたすら他人を擬態して
無表情の砂に埋もれる虚ろな生物が底に張り付き
頭上で勝ち誇ったようなつり革が
狂ったラインダンスを踊っている

俺の手に石っころをくれ
俺達を隔てるガラス壁を叩き割ってやる
闇の疾駆を流入させるのだ 
俺の手に弓矢をくれ
対面ホームで揺らぐ水母のような女を射てやる
柔らかな陰影にふくらむ乳房の片方か
流れるスカートの下に隠された恥部か

だが水中の世界では
どんな石も青ざめた矢も
外部速度に相殺されて速度を失い
一旦列車が動き出せば
俺達は互いに風景ですらもない

5. 小さな生命


乳色の慈愛に包まれて
日々の片隅でひっそりと育まれている
小さな生命が発する仄かな微光が
柔らかくぼくを隈取った

「赤ちゃんができた」と君たちは言った

茫漠とした小さな黒い瞳の奥に
広大な宇宙が開け
この不思議な生命の来歴を告げていた

祝われて生誕する
愛すべき小さな生命に感謝しよう

ゲロと汗と、疲労と憤懣の臭気に蒸れた
夜を蹴立てた最終電車で
ひと時ぼくは、幸福を味わった

暗い窓外にとめどなく広がる黄色い窓明かりの世界
人生を凝縮してゆく懐かしい人々
ぼくは今世界と和解できそうな気がする

君たちは密やかな神秘と会見したか?
ぼくは羨望する
小さな星々の輝く拡散
祝福されてある道
確かな世界への近づき

6. 寒々とした季節


もう独りで生きてゆける季節は去ったというのに
つなぎあった手の温もりが何よりも恋しい
寒々とした季節が到来したというのに
他人を想えぬこの俺は
他人の手には目もやらず
無彩色の濃霧の中を
自己執着軸の血眼の狂奔

雪混じり雨に目をしばたかせて
これこそが生なのだと、これこそが生なのだと喘ぎながら
意気地なしめとはいた吐息が
果てしなく灰色の空中にふぶかれて
ふぶかれて、ふぶかれて淡く消え去った

思わず振り返った
濃密な無彩色の奥底から
大地がストンと落ちたような
恐ろしく空虚な響きが一つして
俺の人間
俺の人間の映像が四散した
ああ
俺の全体が沈黙の中に舞う
俺の足が立ちすくむ

7. ガラスの街壁


日曜日
ディーゼルがやんだ
都会にもたまさか、晴れた朝に青空が底抜ける
沈黙のうちに
いくつもの乳房と、さみしい素足が通り過ぎて行った
ぼくは交差点に立った
巨大な影が崩折れかかる
突然
ビルディングのガラス壁が朝陽に輝いた
一面、輝いた
ぼくは両手を揚げて超立した
蒼穹へ向けて
全速、発進
信号が変わった
ぼくは又ぞろぞろと歩いた

*超立は私的語

8. 発光する祝祭


青い果実のように
水っぽい大気と空に
金色の陽光の細やかににじみ拡がる
冷たい秋の晴れた朝
すべてを脱色する強烈な白色光の季節の廃墟から
すべての人工物が朝露に濡れて淡く浮上する
太古以来、満ちてある変わらぬ”癒し”
だが、懐かしい奇怪な街は震えている
巡り来る破壊的季節の予感に脅えるかのように
白く、細かく、震えている

おお、神よ
お前の壁面は悪魔の形相
高らかに
聳やかに
悪意に満ちて微笑んでいる
私はお前の信奉者、生贄
俯瞰するお前の視線は路面の私をプチュッと潰す
私はお前を賛美する者
奇跡の実現を待望して
透きわたる蒼穹に超立するお前の頭上に
炸裂する閃光の瞬間
発光する壊滅の中心で白熱して輝く
お前とわれらの
陶酔と狂躁の悪魔的構築物の祝祭

9. おいしい青虫


主に去られ荒れ放題の一画に
喧騒に忘られた小さな世界
目ざとい虫たちが集う、都会の不思議
愛らしく、ちょこまかと小鳥達
心かしぐ清明
ぼくはじゃまをしはしない
さあ、お食べ
おいしい青虫を

10. おいらプランクトン


おいらプランクトン
都会の上澄みにぷかぷか
浮いて漂う
海の底はヘドロ
夜空はスモッグ
何処から来たかなんて潮に聞いてくれ
だっておいら
あまりにもちっぽけだもの

星々のきれいな夜には
おいらだって考えた
脱皮の可能性
空しい抜け殻が
幾つか波間に消えてった
何処へ行くかなんて島に聞いてくれ
おいら赤潮まみれの
涙浮かべたプランクトン

11. 歯軋り


おいらは生きたいよ
歯軋りして生きたいよ
だけどおいらの歯はボロボロ
なぜ
なぜ世界は白っぽいのか
どうして時間は粘りつくのか
紙っぺらの街に
張り付いてしまうおいらはいったい・・・
腐敗しないもの供の繁殖
おいらは糜爛する死体


恋愛メロディ
1. 車内の潮風


アルミニウムの渋面の車内に吊るされた
1枚のポスタアから潮風が吹く
身体がふにゃりと曲がり
重量がコロコロころげていった
遠い日の遺伝子の記憶
海、海の生物だった頃
精子がピョンピョン飛び跳ねた

2. 美しい朝だから


美しい朝だから
透明なエアーと戯れながら
スッキップしてゆこうよ
肌を伝ってこぼれる朝日を
蹴散らしてゆく子供達の素足のように
スッキップしてゆこうよ
緑の粒子を
キラキラ発散する若葉の路を
色づく風をおでこにぶつけて
スッキップしてゆこうよ
まだ時間が粘着してしまわないうちに
まだ世界が脱色されてしまわないうちに

3. 春一番


冷たい雨が三日続いて
白いブラウスの胸のホックを一つ外した
春一番が来た
幹をくねらせ、枝をからませ
薄紅の春風と樹木の合歓
真っ新なシーツの青空のベットで
幼い色彩が目をクルクルさせて駆け回る
腐食しかけた去年の枯葉はころころと
恥ずかしそうに逃げ惑う
髪が光り、看板が光り
絹の風が、四月が光る

4. 初夏の光


新緑の葉叢が
初夏の光
生まれたての悪戯っぽい光達と
戯れ、照りかえり
五月の風にリズムに酔うて
揺らぎ、波打つ

五月の少女よ
悲しい厚衣を脱ぎ捨て
金色のうぶ毛も露わに
光のポルカを
舞っていいのだ

5. 午前8時のベルよ


午前8時のベルよ鳴ってくれ
薄いレースのカーテンから
オーロラのように波打つ光が挿し込むだろう
そしたらぼくはベットから跳ね起き
窓いっぱい開け放ち
みなぎる午前の光の中で
真新しいシャツを着て
出発だ
何処へ?
なに何処へなと構うものか

6. 恋


夏の
強烈な太陽のもとで
私はあなたを愛したのだ
ほとばしる私の汗が
あなたの肌を伝ってしたたり落ちる程に
私の熱い思いが
あなたの皮膚を貫いてあなたの胸を焼き焦がす程に
鋭く降りしきる光の細片の降雨の中で
二人して暴かれ
濃密な深海の樹影のように
私はあなたを愛したのだ

7. 空はこんなに青かったのか


透き通るような空の青さは
網膜の底を無限に遠のいていって
私の暗い洞穴から拡がるブルーの大海
噴出する気流に乗って
私は風の塊り
風とともに風そのもの
長く白い尾を引いて
ブルーの海へダイビング
気の遠くなるようなダイビング
空はこんなに青かったのか
空はこんなに青かったのか

8. 恋歌


ああ、ぼくに大切な瞳
君の眼差しはぼくを世界へ投げ上げるよ
谷間の赤錆と睦みあうぼくを
一面の大空に純化するよ
ああ、ぼくに優しい唇
君の微笑がぼくを青空ににじませるよ
ああぼく、又再びの恋歌を歌え
すべてのものが君と供に輝くよ
すべての意味が君の素肌に降り立つよ
世界が君の背後で発色するよ

9. 夕暮れの歩行


光の霧がたちこめた
いつもの駅、いつもの路塀、帰宅の人々
いつもの時が淡くキラキラ影になった
まだ日の高い夕刻
中空を筒抜ける光球から
噴霧される光の粒子
バラバラと路面に飛び散り
それらを私は
つぶつぶ踏みしだいて歩いて行った

10. 愛しい人よ


愛しい人よ
君が微笑めば
世界に幾羽もの小鳥が降り立ち
ぼくの足先で餌をついばむ
ああ、こんなにも鳥がいたのかと
君の隠れる幹々の輝くゲシュタルト
鋭く指笛を木霊させれば
にわかに地の皮どよめき
幾万のうんかが肉を崩して飛び立つ

愛しい人よ
君は早春のスカートを捲り上げ
いつも逆光する
太陽が残像する目くるめく闇
蝶の紋様に旋回して
ラセン、ラセン
ぼく達が球体であったことを思い出すんだ
君のまるい肩から流れ落ちてゆけ、片目の風景
まっすぐに背筋を伸ばした君の視線が振り向くとき
背肉から広大な平面が起こち上がってくる
君の瞳に映されて
それが何であったかをひとつひとつ
初めて思い出しているんだ


失恋リーフ
1. 失恋


私が愛したあなたの微笑みは
透明な木枯らしに吹ぶかれて
吹ぶかれて、吹ぶかれて、
私の空洞を吹き抜け
無色の空に淡く消え去った
からころと路上を舞い飛び
私は呆けた落ち葉の吹きだまり
真空の空に刺立つ木だちの
裸で震える枝先で
ぷらりぷらりと
引っかかって泣いている

2. 失恋2


あなたの黒髪に花びらが舞い
あなたの乳房が緑色の風に揺れ
あなたの素足に朝日がはじける
白い歯に青空が映じた
もう決して舞い上がる水鳥を羨ましがらなかった
束の間の真実
だが地軸が回転する
大地のいかなる葉陰
いかなる街角の窓辺に
それは住まうことが許されるのだろう
零されたひとしずくの涙の水底に
深く潜水するより他に 

3. 荒野


はるかな荒野をあなたは駆け去る
露わな肩甲骨を引きつらせて
ごつごつした岩陰の重なる中へ 

吹き渡る無色の風が
一瞬キラリと閃いて
あなたの背肉をかき消した
太陽はあなたの背中にくっついて
地平線から消え去った

底冷えする闇が
凍えた地表に噴出する
冷却した地殻の断層が
ピシピシ音を立ててひび割れる

コヨーテが一匹
金属の悲しみを夜空に響かせた
冷たい岩石の狭間から
異様な静寂を吐き出す星が
融解した金属の光をどろりと投げかけながら
鉱物の目で
私の頭上に鎮座した

4. 冬枯れの木立


白濁したミスト漂い
そこだけのエアポケットのように
純白の光り注ぎ
まぶしすぎる光輝みちて
生命の紅花咲きいずる
だが季節は
草花の飛び立ちをもぎ取り
冷たい秋の路面に
それは横たわったまま
凍れてしまった
冬枯れの木立の根方に
腐れすらしない悲しさ
やがて
柔らかな陽射しに
木々のこわばりは溶け出し
枝々に再生が芽吹く時
冷たく氷結した青い眼差しは
泥だらけのまどろみを開始する
飛翔する花々の
静かに腐敗しゆく臭い立ちの中で

5. ゴキブリの繰り言


いやらしいゴキブリが
私の乳房を舐めたいって言うじゃない
笑わせないで
あんたの卑屈がたまらないのよ
私はいつもブラジャーを外して
開けっぴろげでいるというのに
あんたは薄暗い柱の隙間から
埃だらけの手足をガサゴソ黙しているだけじゃない

あなたのともした灯火を
ずっと消さずにおきたいから
何一つ復活しない
暗い冥府を歩いていたいのです
だが、私の無頼漢が
侘しげな光を漏らす娘達の窓辺に
口笛を吹き送るのです
ああ、何という悲しさ
引き立てられる私の
捧げ持つささやかな炎に
あなたの灯火に
あなたよ
白くしなやかな手をかざせ

私がちょっと覗いて見たら
いい気なもんじゃない
お願いだからひと思いで踏み潰してくれだなんて
あんたの臆病が嫌なのよ
クチづけぐらい私はいつでも
欲しい人に呉れてやるわよ

6. 明るすぎて虚しい


太陽を喪失したのは私の罪か
暗闇に手探りするのは私の罰か
私は触れたい
柔らかく温かなあなたの両の乳房に
私は知っている
無窮の青空が悲しんでいることを
人気ない山野で
静かに咲き誇る草花の
涼やかな風に小首を傾げて
白雲の行方を沈思していることを
又、森の奥深く
降りしきる純白の陽光を翻し
キラキラ光る葉群れのさざなみに
無数の水球をはね散らかす小鳥達の歓呼を
淡い緑の光線の樹木の沐浴を
だが、あなたの熱い血液を離れて
それらは
あまりに明るすぎて虚しいのだ

7. 落日


堅く封じられたコルク栓をポンと抜き
脆く収縮するガラス管をくぐり抜けて
純白の帆が口ずさむ私達の船出
青く遠ざかる大空と
紺碧がせり上がる大海の交わるところ
白雲が恥らう
透きぬける世界への旅立ち

落日
紅すぎる火影が額を黒く横切った
褐色の秋が吹き来る梢のさざなみに
私は世界の落葉を悲しんだ
萌え出ずる再生の種子を孕まぬまま
冷凍されてしまった未来
朽ちゆく草花の腐乱する音が聞こえる
私たちはそれぞれの都会へ戻った

だが、私がそこに幻視しようとしたもの
冬空の予感に
奇怪な枝葉を逆立て
爛熟した光に火照る
燃え立つ大樹と黄金の散り頻る絨毯
震えたつ果実のもぎ取り

8. 片隅の恋


白っぽい街路の片隅で
季節外れの若い枯れ葉が
行き暮れたつむじ風とキッスした
カサコソとやつれたポプラの喝采に
ひとしきりクルクルと頬を染め
しかめっ面した路地裏の
埃だらけの曇りガラスに
ぶつかり、ぶつかり
疲れた風が吹き渡る
青々とした悲しい大草原に
咲かせよ1本の月見草の花

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