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2008
1.赫黒い夕焼け   *** 赤色 は自選、クリックで開きます。(開かない時は▲をクリック)

冬の裸木の
激しい樹幹が
いまだ来ぬ季節の
きおくの残照に根指を差し入れ
せいめいの基本形を
寒空に絡みつかせる、その
網状の先端から一羽
冬鳥が流線の形をして地上に舞いおり
泥濘に半ば埋もれて凍った
もう誰も語らない
未来の落穂を
啄ばむ

2.人間の跳ね橋


あなたの心と、わたしの心は
とっても
同んなじようでいて、違い
ちっとも
違うようでいて、同んなじ

だけど、だから
諍いに煙ぶる地上の雲間から
離ればなれの個と個を渡す
人間のフヘンの跳ね橋の
途々切れた虹のアーチをつなぎ
再び顔と顔を見合わせる
肋材の突き出た悲しみの橋脚
塗装が剥がれ落ちた喜びの橋梁を
ニョッキリ
所在ない青空の空位へ
わたしも
そして、あなたの指先もいつだって
突き立ててよいのです

3.朝の絹布


お隣の奥さんが少し離れて炬燵に入っている。 奥さんの頭の中は、'着替えのパンツを取りに行かなければ' という思いが渦巻いていて会話に身が入らない。 娘が割って入ってきて、 「ねぇ、おかあさん、どうしてそんなものがいるのよ、ねぇ」と責め立てるので、 「でもxxねぇxxx」と、 奥さんは気弱い行ったり来たりを繰り返す。 娘がクルッとふり返り、 見透かしたような笑クボが「ねぇ、そうでしょうxxx」としなだれかかる。 'どう答えてよいものか'「うxxううぅんxxxx」と、男はテレビに向かって呟いている。 そんなことにはお構いなく、「さあ、さあ、」 母親をしきりに促す取って返した娘の声が、さあさあ遠くから鋭い雨脚の嘴で頭の後を突っついてくると思いながら、 痛くないふりをしたいおでこがどんどんテレビの画面にのめってゆく。と、 気づけば嘴の声がさっきから私の肩をちょんちょん啄ばんでいるのだ。 見るともう奥さんは裸で、固く目を閉じた蕾のように炬燵布団を背に敷いて横たわっているのだ。 男は娘の赫々と開いた口腔を背中に感じながら、奥さんの仰向きの頭を転がすように引き寄せると、 一斉に花開く柔らかな白い触手の絡みつく芯奥の熱い唇の吸い付きて 痩せぎすな御婦人の肩を抱き寄せ絡みつく髪を払いのけながら乳房まさぐるうち娘のことなどすっかり忘れ 女人の腰が高く掲げられ挿入が促がされている全身を棒状の先端と化し ずずずxxずxと、熱水に揺らぐたおやかな海藻埋め尽くされた深い安堵の海に全身を潜り込ませると 掻き乱されたヘドロ状の底の方から白く粘っこい粒子の快感が水煙を巻いて立ち昇ってくるので 'いかん、果ててしまう、動きを停めなければ'と思うやいなや、 夢の床に幕が落とされ、 しらじらとした朝の机上に、 端正に折り畳まれた絹布が置かれて光っているのでした。

4.それを愛というのに口ごもり


孤独な部屋で
プア
あなたよ なにを想っているのか
掻い出しても掻い出しても崩れてくる
引き下がった人生の砂面か
目指しても目指しても辿り着けない
揺らぎ立つ蜃気楼の確信の扉か

プアプア
今夜 世界は 雨音に包まれている
ほんとうは あなたは とっくに 知っているのだ
あなたが利き手を伸ばして掴み取ろうとしなかった
幸せというものが生まれくる襞の薄さを

言葉が散らかるまえの白布の路上で
割れても割れても少しも変わらない
素朴なロウ石であったことの小さな驚きを分け合い
きみの線描に重ね合わせて描き続ける指先の喜び

それを愛というのに口ごもり
ぬれしょぼたれて
ひとり描いては消し描いては消し
言葉のカーテンを引きさえすれば
粉ぶく陽光のなかで
向かい合ってちびてゆけるのを

5.生きていれば


生きていれば
いつかは
じゃなくってときどきは
たわわな幸福を見上げていては跨ぎ越してしまう
つま先のちっぽけな喜びにでっくわすことだってあるさ

磨耗した残骸だらけの海辺が広がる
にび色の長い浜をふらつきながら
単調な砂の連綿に半ば埋もれて
ときおり鴎が不様に飛びたち
予期せぬ光沢の貝殻片に呼び止められる
何の値札もつかないしゃがみ込みに
たなごころの水底が洗われる
ひと吹きの風に
鮮やかな時が吹き戻されるように

生きていれば
凍えた朝が明けるたびに
おのれと世界の不分明な
曖昧模糊とした粘性の希望が
日々のきしみを包みこむ朝霧のようにたちのぼり
虫や鳥や獣ではない私は
光背に隈取られた新装の物語に
無心でいることができるだろうか

意識の滝に
もうもうと言葉が落ちかかり
正義や怒りの赤黒い輪郭に
緑青の翳りが帯びはじめる間際
観念の祭壇に
私の憎しみを捧げるな

6.後悔


今にして思えば
やくたいもない分別が閉じ込めた
口ごもる心のつぶやきが
あなたによって
あなたへと
輝く放物線を描いて
明確な方位へ吸い寄せられてゆく

地上の現実に組み合わさるギザギザした
妄想が苦しかった
検閲を逃れて上昇する希薄な空の
昔日の妄想が幸せだった

跡形もなく放擲された花壇に
又ふたたび細っそりとした一本の茎の未来を
行為が陽光に開かれる意味の花弁を
あなたと私は
反発しあう同じ極の磁性体だと
信じたかった
大きな欠落の円周を挟んで強力に引き合う
オスメスであると信じたかった

7.訃報の浜辺


深夜
泡立つ日々の防波堤を越えて ひたひた
独りであることの透明な寂しさに浸されて
立ち竦む

内圧する球体の呼気に触れる
広大な大気のどこにももう
想いを馳せる人がいない軋る時の空疎

ああ人の生き死にの
星降る夜々の残酷さと理不尽よ
くやしい悲しみが
静寂にきらめく水脈(みお)を流れてゆく

もう
あなたという無二の肉体を抱き寄せることができない
もう
鼓膜があなたの息吹にこそばゆく震えることができない

永遠に無い
といふ事の
圧倒的な物質の切なさを
いつまでも帰りたがらない感情の子供らが
とり繕った日々の囲いをたたいて
泣きじゃくっている
8.生のリハビリ


自然の摂理とはいえ
色とりどりの個性で賑わっていた夜空も
地軸がぐらりと回転して
輝きが1つ消え、2つ消え
とうとう
繋がりが切れた電信柱が一本
昔日の地平線に傾いで突っ立つばかりで

季節は激しく移り変わり
その乱動の
曲がりくねりにいつしか
首を丸めた身の丈の
縮こまった固定に慣れてしまって

諦めの流砂に埋もれゆくにはまだ
繰り返される世闇の明け染めを
生の摩擦で感じていたい
賑わう冥土への土産話に

生きる柔らかさのリハビリテーション
黴くさいカーテンを開らき
既視に曇るガラス窓を開けて
何よりも生(き)の陽光が必要だ
見知らぬ空に身体を届かせる
筋肉の伸びが必要だ

9.ことばスケッチ新宿


足元に
セロファン包みの花束々を散らかして
眠りこける太めの少女
始発の下り電車で

  ーーー ◇ ーーー

朝ぼらけ
ゴミに凭れて
昨夜の喧騒が蹲る街路地を
おお
でか林檎丸かじりしながら
颯爽と歩くな
ねっ、細身の少女よ

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