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2005
1.モノクローム   *** 赤色 は自選、クリックで開きます。(開かない時は▲をクリック)
ヨノ 中で
単なる1であることの
モノクロームの寂しさ を紐に結わいて
川へ捨てに行く

往く 川の流れは 絶え間なく
キラキラと 瀬石に さざめき
果てしない 時の連綿 にくるまれて
水鳥が <今> を 啄ばむ

草や木や
我らヒト 以外のすべての生き物がそよぐ
おおいなる必然 の無邪気さにはじかれて
小さな寂しさが上目使いで私を見上げる

連れて行くしかないか
一匹のコオロギの篭を指に提げて
ガチャガチャと線を引く自意識の音色を聞きながら
飯を食いに 己が巣へ跳ね帰る

色づく夕暮れの空がこじ開けられ
収束してゆく背中に
埋葬した過去が降灰する
遠く夢の対岸
ずっと忘れていた筆箱の埃を払い
色エンピツで射撃
もう1つの単なる1を呼ばう

2.傾斜路
 


あなたはもう
これまでのあなたを畳んで
あなたに馴染んだ
此の処を出て
行かなければならない

たとえそれが
殺風景な
あなたの気に染まない
傾斜路であっても
それはあなたの
あなたに対する義務であり
生きると云うことの
もう1つの正体なのだから

社会と云う頑固で移り気な
逃げ水を湛えた風景の中を
固有にほどかれて
ほどかれて ほどかれて
あなたの終結に出会うまで

3.岐路を曲がる
 


また一つ遅れてしまった
そおして
どんどんと遅れが溜まっていき
もうとても追い付けなくなって
岐路を曲がる

少しだけ違った光景の中を
徐々にずれ
又、別の分岐を
曲がる予感がする

Many Many Many たくさんの朝が開け
夜の希望が下水溝を流れて行った

Many Many Many たくさんの女(ひと)と別れ
また一つ別の夕暮れが訪れる

Many Many Many たくさんの星が降り
地表の面立ちはゆるやかになった

埋まるものは埋まり
露出するものは露出する

悔しい雨にうたれて
風景はすっかり違ってしまったが

まだ 終わらない

4.共同の渇き
 


茫漠とした空に
人生とは何か?
無数の蝙蝠を飛び立たせるな

観念の草原で
目を閉じた言葉は
すぐさま球体に捕虫される
身体の眼を見開いていることだ

包み込まれた単調な時間のわずかな偏差に
微分された人類の幸福が埋設されている

壊れてゆく世界の果てしない階梯を
あっけなく転げ去ってゆく死者
君に仕掛けられた時限爆弾

夢の人造物に占有されたわずかな隙間から
交通に揺られて
整形された自然の顔が薄目を開ける

月は人間の黴臭く浮かび
朝が来ても
太陽はすっかり忘れられている

照明に禁示された夜
屋根(ドーム)の中の隔離された幸福
固有な衝立の向こう側で
共同に渇く喉を潤す

5.理不尽などよめき
 


解のない問いを問うてはいけない、って
ぼくが大人になる前に
誰にも教わらなかったから
白髪頭になった今でも
何処かに行ってた青年が戻ってきて
お父さん 人生って何ですか?
って、
たくさんの荼毘が煙ぶるもやの中で
真っ黒な顔になって聞くのです

遠く離れた地の果てから
理不尽などよめきが押し来たり
私たちの地球のあしたに流れ込んでゆく
ほうぼうで言葉は嗚咽に詰まり
ごきげんよう
っと、ひとこと言ったきり
青年は踵を返し
ぼくはいそいそと今日の後片づけをする

*スマトラ島沖の地震と津波による大災害のニュースに包まれて言葉が産み出されましたが、 最も被害の大きかった地域はイスラームの人々が大半で、 イスラームでは死者を火葬にせず、土葬で埋葬するということを後に新聞で知りました。

6.昏む生命(いのち)
 


リラの花咲く街道を
みどり背の青年が駆けてゆく

遠いすらりと伸びたつ椰子の木の追想
ガジュマルの絡みつく
屋根なす葉陰の白ペンキのベンチに腰掛け
木洩れ陽にまだらな孤影の男よ
知らぬ間に手の平が拾ってきた石英の粒を数えている

ららら
あたいたちは死ぬるら

空を沈めた海の底砂
太陽のマリモが投光する記憶の棕櫚
陶然とたゆたう光の縞目

あなたとのセックスは覚えていない
昏む生命(いのち)の揺らぐあわい
時の爛熟するふくらみ

ららら
あたいたちは死ぬるら

喉元まで押しつまる卵巣が
蜻蛉に通告する

つぶ つぶ
時の 産卵の
ふつ ふつ

あたいたちは死ぬるら
ららら

7.枯れ田の木立
 


寒冷が切り裂く
冬の青穹
底青い晴天の一枚シートを
見はるかす
鋭いエッジの切り絵のような山稜

氷壁を吹き降ろす
谷風を額の分流する
枯れ田の角の
一本木立が空を睨む

固い樹皮に
内圧する代謝の
凍える細胞の
水面が漣立ち
深海のミトコンドリアが
春の光子を求めて
いっせいに浮上する

落とすべきものはすべて落とし
遥か彼方
近づく未来の
つま先の息吹の吐き出す
今がむず痒い

8.草原の再生へ
 


閉じた窓から
ガラス越しに
明るい光が差し込み
細胞が温かい
洞窟の鍾乳石が氷解する

さあ、蓋を開けよう
大気はまだ冷却を寄せ返し
落魄の外皮を纏っているが
死んでいった者たちを踏み越え
巡り来る死の循環の再生へ
全体重を傾げて踏み出して行かねばならぬ

すべての枝枝の激しく芽吹く
生命の昇り往く規則をたぐって
蔦の絡まる草原を駆けていた
太古のつま先の記憶を呼び覚まさなければならない
片足がヘルメスのサンダルをつっかけたままの
遠い足裏に

* ヘルメス;霊魂を冥界に導く道しるべの神・ギリシャ神話


9.時の揺りかご
 


こころが
激しくゆさ
ぶられる時の揺りかご

眠れ、眠れ
中年の谷間へ

もう、どんなにしても
川水は汚れ
共に流れゆく心なく
ただに
泥田に注ぐばかり

やるせなき
春の掟によって
若草色に生きねばならぬ

今はもう皺がれた手の甲に
僅少の輝きは刺さるだろうか?
押し詰まる循環の褶曲に
眩しい音が弾けるだろうか?

10.黒い風
 


若者が自殺した
幼い娘と若い妻を残して
せんない せんない

今はカケラとなってしまった頭蓋の内部で
いったい何がぎっちり
身動きとれないほど
押し詰められていたのだろう
足元から見上げるあどけない顔と
幸せな妻の微笑を思い浮かべたはずだ
両親や兄弟やたくさんの友人達の声も聞こえたはずだ
娘に謝り妻に謝り
両親に兄弟に友人達に平謝りで謝りながら
それでも
一瞬の黒い風が吹いてしまったのか?
せんない せんない

たった一晩の時の巡りが
何度も何度も行き来したためらいが
裏がえって
今はもう決して同じ箱には収められない時が始まり
もうどんな言葉も空虚を引っ掻く
激しい逡巡の闇の中で
君が背負った荷物よりも
もっと大きな荷物を母娘は背負わなければならなくなることを
若者よ
君は気付いていたろうか?

せんない せんない
せんない せんない

*「せんない」というのは、私の母方の伊勢のおおおばあちゃんが、人智の及ばぬ物事に対して、 具体的にはその家の大黒柱であった孫娘の婿が交通事故で若くして亡くなった時、 悲しみに暮れる親族が寄り集まった部屋の隅で、むしろ笑みを浮かべてでもいるように、 一人首を振り振り頷きながら呟いていた言葉で、文字通りには、 しょうがない諦めの気持ちを表わしているのでしょうが、同時に、悲しみは蓋をせなあかんという、 生き続ける為の何とも切ないニュアンスが込められていて、その独特の言い回しと共に思い出されます。


11.招き
 


あなたに呼びかけると
あなたの声が聞こえる

あなたを見つめると
あなたの姿が現れる

あなたはいつも笑っているが
どことなく寂しげだ

あなたは今はもういないが
あなたのいた窓辺にもたれて

あなたの仕草を真似
あなたの口真似を真似て

明るい光のガラスの中
晒されて
ひとりそっと招かれる

12.ホップ
 


またひとつホップ
春だから
ガレ地にとび出るヒヤシンス
流れてゆけ桜の花びら

よいよ
夜のしじまに
お前なんか死んじまえ

明け方の太陽に
毀れたボディを接着するのさ
狒々のマントをひっ被っぶって
ひたすらに
鉄仮面の溶接作業に
再会するのさ

13.春嵐
 

白昼だというのに/天にどん帳が垂れ下がり/目やにを付けた黄色い空にせかされて/粘っとりとした予感どおりに突然/冷たい黒ずんだ風にあおられてトタンが騒ぎ/ボツリ、ボツリの大粒の雨粒にアスファルトの肌理の埃が臭い立つや/牛馬のしょんべんのような雨が落ちかかり/しぶきと雨音の騒然につつまれた。

春の嵐だ
地を轟かす交叉する雷鳴
平穏の地面に埋め均した不安に落雷する
ほじくり出される私たちの未来
連続は 連続されない
いな光が警告する
路表の冠水を切り裂いて滑り抜けてゆく車のヘッドライトに照らされて
びしょ濡れの髪の毛から涙のような雨垂れを流したアシュラの影が走り去ってゆく

14.交差点
 


夕日に染まる高架の街に
疲れた身体(からだ)を斜めに立て掛け
見降ろせばベルトのような
車と人の茫漠とした流れ

あかいろ信号が点滅する
あおいろ信号が切り換わる

広大なスクランブル交差点で
忘れてしまいそうな名を呼ぶ
急ぎ足の空虚な空へ
きのう誰それさんと TEL したばかりだが
さっき誰それさんとメールを交わしたばかりしたが

果てしなく直接性が奪われて
具体の輪郭が抽象の線分に置き換わる
鮮やか過ぎる電光ネオンに照り返されて
発光するおでこの孤独
眼の奥が探し見つめる未確認地球外生命物体

ほら、ここに人類の1ッケがいますよ
はやく発見してください

15.梅雨(つゆ)灯り
 


額に垂れさがる梅雨空の茫漠
今日もまたか
見上げれば取りとめない僕の人生みたい
たくさんの水溜りができちゃって
暗い樹木が逆さに映っている

でも地面の水たまりの鏡は明るい灰白色に反射して
飛び込む雨滴と戯れる
ちいさい水たまりは二重三重の小さいまあるい水紋を描いては消し
おおきな水たまりは八重九重のすそを広げる雨紋をぶっつけあって
まるで永遠に終わらない交響曲の楽譜から
            おたまじゃくしが泳ぎ出てくるみたいな

煙ぶる雨を呼吸して
眼の醒める鮮やかな紫陽花の花房が
とても静かに
欠乏する光を雨垂れに溶かし込んで
青紫や赤紫、白や青やピンクの光芒を
花弁の裏から灯している
雨濡れた葉々の辺りに
しっとり
雨が好きだった君の唇のように

16.All right
 


ぼくは裾野の野の草だ
名を告げてもすぐに忘られるありふれた草だ
かつては山の頂きに厳しく咲く高山の花々を憧れたこともあったが
いくつもの死者の月影が額にかかる齢五十過ぎの
一瞬が尾をひく悠遠の
なべての生命(いのち)に星降る夜に
希薄な澄んだ空気でしか生きられない孤高の花々に祝福あれ
光の届かない深い湿った谷間の隠花植物に幸いあれ
ぼくはぼくの All right !
いつの間にか裾野を濡らす
闇夜に静まる自己肯定の手の平に受けて
草々の葉先の夜露を啜る

17.秋の終止符
 


人気(ひとけ)ない一本道を
チャリンコで走っていると
どこまでも、どこまでも
駆けて行きたくなる
秋空が誘うから
見知らぬ声が呼ばうから
彼方で
優しい眼差しがウインクするから

でも、ぼくのコーナーにたどりつくと
ぼくはぼくに決まったハンドルを横に切る
もの事には必ず終わりがあるから
どこかで終わらさなければならないから

ちいさな終止符をころがして
たくさんの虫すだく道の
くやしい角を曲がると
沈みゆく秋陽が非難がましく
家路を急ぐ丸まった背中を
背後から朱に染める

18.美しい朝に
 


金色の
輝く粉にまぶされて
細胞がいっせいに
光の霧のスープを啜る
美しい朝

光の水彩の
滲み広がる秋の空の朝の
遥かな水面で瞼が
植物の記憶に浮かんでいる

のっぺらぼうずの
マントラ日々の更新に
噴泉する天然の時の断層
目をみはる循環の再来

9月はたくさんのものを失くした月だが
10月にははや安堵の影を地上に横たえる

樹木も、建物も、通勤の男女も
根方から大地に、基礎際から地表に、急ぐ足元から路面に、
穏やかに斜光する海波の打ち寄せに
おのおのの影を横様に長く伸ばす

それら陰影の個物を横切って
柔らかな木洩れ日の明滅の中を
二つのオレンジの切り輪っかに跨ったドンキホーテが
奪われぬ時の小径に沿って
菱形にひしゃげた笑い顔で
音もなく走り抜けてゆく

19.融解する世界で
 


毎日が転がってゆきます
長い下り坂を
歳を背負う(しょう)とほんとに速い

乾いた泥の沈着した表皮が
赤ぎれた罅割れで浮き出る鱗のようにめくれ
水枯れた川床の手の甲のように
生き生きとしたロマンスが失われているのです

かつてはどの人の端にも小川が流れ
恥じらいや笑い声
裏返す川石から飛出てくる沢蟹の驚き
皺がれた路地裏の艶めかしさや
冷っこい水を掛け合った光る草葉の戯れ

そのまま飲める水が流れていたはずなのに
富を汲み上げる時の傾斜に
地下水を根切る鉄のパイルが打ち込まれ
人間が枯れてしまった川床を
日付を振られた無味乾燥な風が吹きぬけるだけ

この傾斜は地球の褶曲面?
それともぼくの問題?
いえいえだとしても 
先進が加圧しすぎた世界の炉心が融解して
巨大な貧富の重心がマグマへ沈みこんでゆくのです

地球規模の
過去からの光線も
未来への視線もひずんで
ささやかに整地した個人の庭も底ぬける

未知の光線に照らされて
スカスカになった人間の組成から
夥しいスポンジ状の事件が放射され
誰もがひとつも焦点を結べないまま
貧富のエンジンに加速された
物事のスピードに置き去りにされてしまうのです

個人の底穴から流れでる
タールのような不安の溜りから
大きなロマンが亡霊のように鎌首をもたげる
生活のささやかなロマンスを失った代償に

ぼくはもう一度
水枯れた抽象の損得の岸辺を離れ
満々と水を湛えた
川や海を探しに行かなければいけないかもしれない
川虫や跳び虫の
小さな生き物の喜びに出会うために
ささやかな経験のロマンスに戻るために

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