ゆうべの夢

ゆうべしたたかに酔っ払って人の家に泊まった。
恋人と二人で飲んでいたので、おそらくは彼女の家だと思うけれどどうにも記憶がない。
気がつくと湿っぽい布団に寝かされていた。

まるで殺風景な部屋の、白く間伸びた天井を見上げる。
室内に人の気配はなかった。
不思議とアルコールの残っている感覚もなく、自分はぎしぎしと体を起こした。

「あー」

自分の声だけが色のない空間に響く。
枕もとの時計はすでに昼過ぎを指していた。
随分な時間だと思ったけれど、所詮自分は暇な大学生なのでどうでも良い。

腹が、減っていた。

性質の悪い空腹感がさっきから自分を責めたてている。
自分は布団から這い出し、入り口のドアから道のように脱ぎ散らかされている服を、おそらくは脱いだ順番だろうと思える順に着なおした。
最後に靴下を履く。
ひげが伸びているな、と思ったけれど、剃刀が見当たらなかったので放っておく事にした。

剃刀と同じように食べるものも見当たらない。
仕様がないので何か食べ物を買いに行くことにした。
幸い財布の中に千円札が一枚だけ残っている。

鍵をかけないまま外出するのは家主に悪いと思いつつも鍵を見つけられず、なるべく急ぐということを誰に言うでもなく心に誓って自分は靴を履いた。

なのに。

ドアが開かなかった。
自分は焦ってドアを見たが、別段変わったドアでもない。
無駄だという直感に目をつぶって何度か試してみたけれど、やはりびくともしない。

そのうちに空腹が耐えがたくなり、よし蹴破ってやろうという気になってきた。
試しに二、三度蹴飛ばしてみたがみしりという音すらせず、自分はげんなりした。

土間に座り込むと白い部屋がやけに広く見える。
いつまで自分はこうしているのだろうと考えていると不意に右手のクローゼットが開いた。

中からは提灯を持つようにパンプスをさげた恋人が、背をかがめて出てきた。

「嫌ねえ、杉里君、玄関はこっちなのに」

まるで子供に諭すような恋人の声を聞きながら自分は、やっぱり妙な女と付き合ってしまったと少しだけ思った。

おしまい

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