飛び立つ飛行器の中は、無言だった。
森山にかけてあげる言葉も見つからなかったし、なによりあたし自身がショックを受けていたのもあった。
暗く押し黙って、あたしは森山の頭があるであろうあたりの壁を眺めていた。

インカムから聞こえていた救難信号が聞こえなくなってもう随分が経った。
帰りは風に逆行することになる。少し時間がかかりそうだった。
あたしは目をつぶらずに、何度か寝返りをうった。
気持ちに整理がつかなかった。
ムル喰いは死んだ。
その単純すぎる事実に、何の意味も見つけることができなかったのだ。
自分がその事実に、どんな気持ちを抱いていいものなのか判らなかったのだ。
あたしは眠れない夜のように、何度も寝返りをうった。

「昔、トビウサギを飼っていたことがあってね」
ぼそぼそと森山の声が聞こえた。
「すっかり忘れていたんだ。さっき、あれを見るまで、忘れていた」
「…」
「ずっと考えないでいると、飼っていた生き物の名前まで、忘れてしまうものなのだな」
あたしは返事をしなかった。
何を言うつもりなのだろう、と思いながら黙って、横を向いて、壁を見つめていた。

「…もっと早く名前をつけてやればよかったなあ」

思い出すみたいにして、森山は呟いた。
その声を受け止めると、何故だか涙が出た。
あたしは森山に気付かれないようにして、すこしだけ涙を流した。


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