しばらくして、発着路のトオマワリから無線が入った。
それほどノイズの聞こえない通信。
距離が近いせいなのかな、とぶつぶつトオマワリは呟く。
もう一度管制に戻って通信を試そうかどうしようか、とぐずるトオマワリを初夢さんが一喝した。
「行くって決めたんなら、行きなさい。男の子でしょう」
無線の向こうが黙る。
ふう、とため息をついて初夢さんはあたしの方を振り向いた。
困ったやつだ、という表情がおかしくて、うっかり笑ってしまう。
窓に寄ると、戸惑ったようなフラミンゴが発着路に佇んでいるのが見えた。
ユニットの背中には大きく27、と数字が描かれている。
高いところが苦手だというとおり、その上部ハッチは閉じたままだった。
フラミンゴは珍しいB・Bの器体へ興味を取られているようだったが、やがてそれを止めて首を伸ばし、空の方を向いた。
どうやらユニットの中でトオマワリが飛び立つ覚悟を決めたようだった。
B・Bの器体を避けるように回り込んで、ピンク色の器体がとつとつと足を伸ばす。
大きな羽根を広げて、フラミンゴは飛び上がった。
「おお、飛んだ」
まるで飛び立つと思っていなかったように、初夢さんが感嘆する。
こもった声の無線がから、ちきしょう、と短い悪態が聞こえた。
しばらくはフラミンゴとの通信もクリアだったが、時間が経つにつれてがりがりとノイズが混じるようになってきた。
やはり、さっきは距離が近いおかげで平気だったらしい。
一応繋ぎっぱなしにはしておく、と声を残して、あまりトオマワリの声は聞こえなくなった。
桑納さんはソファーに座ったまま、おいしそうにクッキーを食べている。
森山は煙草を吸いに行く、と言って外に出た。
時刻は、もう二時を回っていた。
学校ではそろそろ五時限目の授業も終わる頃だろうか。
まだまだ青い空を眺め、クッキーの甘い香りをにおい、少し妙な気分になった。
二日連続で学校をサボってこうしていると、まるで学校の方がおまけのような気になってしまう。
危ないなあ、とあたしは自分を戒めた。
卒業するまでは、こっちはおまけだということを忘れては、だめだ。
卒業してあたしがどういう道に進むのか、自分でもまだよく見えなかったが、とにかく卒業までは、学校をおろそかにしてはいけない。
そこまで考えて、少しあたしはおかしくなってしまった。
∧卒業するまでは∨なんて、まるで両親と同じような言い方だ。
なんだかんだ言っても、あたしは両親の子供なのだな、と、妙な納得をする。
唇を噛んで密かに笑うと、不思議そうに桑納さんがこっちを見た。
なんでもないです、とあたしは頭を下げる。
初夢さんはコンソールに座って、ぼけえ、と空を眺めていた。
朝から散々飲んだコーヒーやらお茶やらなにやらのせいでトイレに行きたくなって、あたしは席を立つ。