予言の夜はいつ来るか?

ワイバーンの繋がれている岩に近付くにつれ、ノイアの服の中で魔法の鍵が鼓動を始める。
彼女の心臓の鼓動とは違うリズムの、不安を掻き立てる脈動だ。
これが、ワイバーンの鼓動なのだろうか。

ノイアは鈎を振り、それが空を切る音で余計な考えを振り払った。
果たして自分の力でワイバーンを制御しきれるだろうか。
しかし、どちらにせよ彼女がワイバーンを制御し切れなければ、チームは全滅だ。

彼女もドリーもクララも死ぬ。
他に選択肢はない。

「お前の触れたものと、壊れた道具によって、夜のうちに死ぬであろう」

ノイアは、すでに体の一部になってしまったようなその予言を繰り返した。
まだ夜のうちだ。
自分が死ぬ夜は、もしかしたら今夜かもしれない。

彼女はもう一度鈎を振った。空を切る音。この速度だけは本物だ。
服の中から怪しく脈打つ魔法の鍵を取り出し、彼女は意を決してワイバーンに近付いた。

「ウィニー。出番よ」

低く抑えた声で、彼女は魔法の鍵を掲げた。
不満げに唸りを上げるワイバーンと目が合う。
ワイバーンがその巨大な顎を動かして、不満げに何かを呟いた。
無論、ノイアに竜の言葉は判らない。
しかし、どういうわけだか自分が安全であるという確信が湧いた。
この魔法の鍵は、きちんとその効力を発している。ノイアはそれを確信した。

ノイアは魔法の鍵を懐に仕舞ってワイバーンに近付いた。
かっ、と口を開いたワイバーンに怯む事無く、彼女は北西の方向を指差した。
「ウィニー・ザ・ワイバーン、ドリーとクララが脱出するのを援護するのよ。向こうの本隊を引きつけて」

ばさ、とワイバーンが羽を広げ、不満そうに咆哮を上げる。この鳴き声に、向こうが気を取られてくれるといいのだが。
ノイアは大きく羽ばたいて舞い上がるワイバーンの尾に手を伸ばした。
彼女は、彼女の鈎がワイバーンを傷付けないように注意して、それに捉まる。
硬い鱗が手に痛い。
唇を噛んで彼女はその痛みに耐えた。

グライダーのように滑空するワイバーンにぶらさがり、砂丘を越えてゆく。
砂丘を越えた瞬間、ノイアの目に曙光が飛び込んできた。

夜が明けたのだ。

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