ギャングエイジブラボー

主要登場人物

水道橋:不運な大学一年生男子。水道橋は苗字。あだ名ではない。
トッペイ:背のうすらでかい大学一年生男子。漢字で書くと特平。
智子:知らないことの多い大学一年生女子。意外と常識人。


シーン1

冒頭、ディックブルーナのウサギの絵が映し出されている。
「ぴょこ」っとお辞儀する効果音が挿入されて画面は切り替わる。

画面切り替わって部室の中。
三人が机を囲んで喋っている。いきなり喋りだす水道橋のアップ。

水道橋
「あのさァ、前から疑問だったんだけど、ウサギの尻尾ってどこまで実ィつまってんの?
毛刈りしてみるとやっぱ丸いのかなあ?
それとも細長くて毛で誤魔化してる訳?」

トッペイ
「ばっか、ウサギに尻尾なんてねーじゃん」

智子
「あんたバカじゃないのォ?丸よ、丸。団子みたいな尻尾」

水道橋(人の話を聞かずに)
「俺は丸いわけないって思うんだよな。
だってさァ、マルチーズの毛刈りってやったことある?あいつらって顔メチャ細いんだぜ?
毛がむくむくした連中って案外実は細いんだよ」

トッペイ
「だからウサギに尻尾なんてねーッつうの」

水道橋
「チンチラとか羊だってみんなそうじゃん。絶対中身細身なんだって。絶対そうだって。
…でも、希望としてはまんまるい方がいいよな、やっぱ」

智子
「で、答えはどっちなの?丸?細長?」

語尾にかぶせるように画面暗転。ホイッスルの音。ピーッ!
シンプルにカタカナで「ギャングエイジブラボー」
ちらつく画面。ロケンロール。


シーン2

回想のシーン。誰かがトランペットを練習する音がぼんやり聞こえている。
映像には音がない。ただトランペットの音に、水道橋のぼんやりとした独白。

(映像)
悩める女が風の強い校舎の屋上の端をとぼとぼ歩いている。人影はない。
その死角のベンチで寝ている水道橋。
彼女は一度屋上を端から端まで歩き、戻ってきて中央あたりで立ち止まる。
ベンチで寝ている水道橋。

水道橋ナレーション
「友達とそんなバカな話をした二日後に、55年館の屋上から僕と同じ一年生の女の子が、」

(映像)
靴を脱ぎ、遺書らしきものを靴の横に置く彼女。彼女は手すり越しに下を眺めている。
寝ている水道橋。もそもそと動く。
カット切り替わって靴と遺書しか残っていない屋上。

水道橋ナレーション
「遺書と靴だけを残して飛び降りた。このことは新聞にも出たし、知ってるひとも多いだろう」

(映像)
しばらくして画面上手から水道橋登場。眠そうに歩いてきて、階段を下りようとする。
ふと足を止めて靴と遺書の方に目を向ける。

水道橋ナレーション
「間の悪いことに僕以外に誰も、彼女の飛び降りた現場に居合わせたものはなく、」

(映像)
遺書と靴に近づいてゆく水道橋。
靴をとり、遺書をとり、こわごわと手すり越しに地面を覗き込む。
のけぞってしりもちをつく水道橋。

水道橋ナレーション
「結局のところ僕は彼女の自殺死体の第一発見者、ということになってしまった」

「どすん」
と何かの落下する鈍い効果音にかぶせて、暗転。



シーン3

再び部室内。前のシーンからはしばらく経っている。
水道橋と智子のいる部室に渋い顔でのっそり入ってくるトッペイ。
机を囲む席に座りながら喋りだす。

トッペイ
「まいったよ、ちくしょう。
また電車、人身事故あってさァ、二限遅刻どころか欠席扱いだよ、クソ。おれ、出席やばいのにさ。
(席に座って帽子を脱ぐ)
それだけじゃなくて、おれ、ぱっちこ見ちゃったんだよね、飛び込む瞬間、超アリーナで。
壮絶だったよぉ、血が飛び散るってよりこう、肉がさァ」

智子(露骨にいやな顔でトッペイを見る)

水道橋(カメラからはその後頭部しか見えない)
「(普通の声で)たしか、こないだも人身事故あったな、この辺。先月だっけ?」

トッペイ
「(ものすごく無神経に)お前もこないだ見たんだろ?あの飛び降り自殺の。
やっぱアレだよなァ、人間死んじゃうと肉だよ、肉。
肉ッつうより花火かな?花火。人間があんな飛び散り方するなんて初めて知ったよ、おれ」

智子(トッペイに何か言いかけるようにする。明らかにいやそうな顔をしている)

水道橋(しばらく考えるようにしてやっぱり普通の声で)
「飛び降りの死体は…花火って感じじゃなかったぜ。
足がかたっぽだけ変な風にねじれててさ。見りゃ死んでんのは分かるんだけど、なんか変な感じ。
花火ってより、やっぱ肉かな、うん」

トッペイ・智子(共に、「うわ、生生しい」という表情で水道橋を見る)

水道橋
「わりい、ちょっとトイレ行ってくるわ」

席を立つ水道橋の背中で暗転。


続きはシーン4。
次のページでどうぞ。

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