なんか楽しいことないかなあ、と、前の席でクラスメイトが呟いた。

思わずあたしは密やかな優越感を感じながら、心の中で呟く。
楽しいことって、まだいっぱい残ってるでしょ。
あたしは机に突っ伏したまま、やわらかい日差しを満喫している。
そして目をつぶったまま、あたしのかわいいヒューヴを思い出す。
ヒューヴに乗って、フィフスチバまで駆けた嵐の前の夜。
初めて軌道エレベータ駅の周りを飛んだ月食の夜。
それは、なによりも充実した時間。
両親も、友達も、学校も気付かない、あたしだけの時間。あたしたちだけの時間。
制服の袖に顔をうずめて、あたしはゆっくり太陽の匂いをかいだ。
「ねえ、しなり」
彼女の呼ぶ声も聞こえないふり。
ねえってば、と続けて呼ぶ彼女もやがて、午後の光線に絡め取られてゆく。
お昼寝するには、とてもいい天気。
本当に、いい天気。


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