short reviews/essay

 

  

 いくつものモチーフが同時に並んでそこに存在し、響きあう――。

 

 このStill Lifeという試みには、そんな静物画のような面白さがあります。たとえば、作品30のこんな歌があります。

 『ケンカしたまま眠る背を向けている君に触れれば湿りたる髪』

 この歌を選んでみたのは、まさに世界にぽんと置かれた「私」と「君」との距離感と愛情が、Still Lifeというタイトルにぴったり合っているから。そして、それは写真家、被写体、歌人と、ここに介在するさまざまな人々との、関わりを象徴しているように思えたからです。「私」と「君」にはわかり得ない者同士の距離があり、わかり得ないからこそ湧き上がる相手への慈しみの気持ちがあり、それがいっそう切なさを感じさせてくれます。

 人は出会って話をし、お互いを知ることができるけれど、私はけして別の誰かにはなれない。自分は自分の歌しか歌えない。そこに、人の孤独と、そんな人同士が出会うことの不思議、そこから生まれる喜びのすべてがあるのだと思います。ほかにも大好きな歌をたくさん見つけました!

 

 静物画の面白さは、質感の異なるモノどうしが心地よいリズムを作り、キャンバスの上に豊かな世界を作り上げるところにあるのでしょう。

 

 これからもそれぞれに、素敵な歌をぜひ。

 

 

(蟹澤 奈穂、詩人

 

 

レビューへ | トップへ  |  最初のインデックスへ